梅乃宿

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新しい酒文化を創造する蔵07 酒蔵のおと

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梅乃宿の蔵人が独自の視点で、新しい酒文化をお伝えするコンテンツが始まります。私たちの酒造りに対する想い、梅乃宿の日本酒の楽しみ方など、梅乃宿の酒造りの現場から聞こえてくる「酒蔵のおと」を言葉に変えて、日本酒を皆さんに気軽に楽しんでいただける、リラックスしたコラムを佐伯麻優子が定期発信していきます。


vol.3 「梅乃宿流 小説と酒のおいしい関係」

「例えば小説とお酒をテーマに、小説を肴に梅乃宿の清酒を飲みたくなるようなコラム」。まだ企画段階のころ、当サイトを裏から全力で支えるあしながおじさん(仮名:股下丈92cm)は言いました。そんなコラムにしましょう、と。今回のテーマがまさにそれなのですが……。本棚を漁ったり検索したり杜氏や蔵人に教えてもらったりした何冊かの候補の中から3作品にしぼって、「どれにするかは読んで決めて」とあしながおじさん(仮名)に押し付けましたら、二週間後に返ってきたのが「全部」。全部? 一週間で3作全部読み返して酒が出てくる場面ピックアップして妄想して文章にしろと? 鬼か?! 鬼だ!
というわけで今回はある意味妙に気合の入ったコラムとなっております。お口に合えば幸いです。

センセイの鞄 川上弘美 2001年平凡社刊 2004年文春文庫刊

otov3_01飲み屋さんでことごとく自分と同じものを注文する人物と隣り合わせになって「趣味の合うひとだ」と思った経験、ありますか? しかも実はそのひと知り合いだった、なんてことは?37歳の「ツキコさん」が高校で国語を教わった「センセイ」と駅前の一杯飲み屋で再会するところからこの小説は始まります。30といくつか離れたセンセイとは肴の好みだけではなく同じ年の友人より気が合うというので、やがて「勘定書もそれぞれ、払うのもそれぞれ」「それぞれ手酌で」という暗黙の了解のもと、飲み友達のような存在になります。そのうちセンセイの家で飲んだり、きのこ狩に行って飲んだり、島の民宿に泊まって飲んだり、なんとなく仲違いして仲直りしてあわあわと仲が深まっていくのですが……。
それにしても食べ物と飲む描写の多いこと。冒頭以降何度も登場する一杯飲み屋、おふたりが呼ぶところの「サトルさんのお店」だけでも、まぐろ納豆、蓮根のきんぴら、塩らっきょう、さらしくじら、もずく、冷や奴、湯豆腐、枝豆、焼き茄子、たこわさ、鱈ちり、塩ウニ、とび魚の刺身、こんにゃく、鮎たで酢……。季節ごとに酒に合いそうな肴を出してくれるようで、近所にこんな飲み屋さんがあったらそりゃ通いますよね。
旬をいただける居酒屋で気のおけないひとと勝手手酌で飲む酒……今の季節なら『純米三酒 温』の燗酒でしょうか。作中四度も出てきて、出てくるごとにツキコさんとセンセイが馴染んでゆく象徴のような湯豆腐と一緒に。あったかいものをひとと共有するとじんわりとお腹の中からわかり合える気がしませんか?

夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦 2006年角川書店刊 2008年角川文庫刊

otov3_02華やいだ夜の繁華街をはしご酒しながら威風堂々歩いたことはありますか? 次の小説の舞台は京都。京大生とおぼしき語り手ふたり。ヒロインは無邪気でタフな『黒髪の乙女』こと「彼女」。その彼女に絶賛片思い中だけど運も間も悪くて名前すら覚えてもらえない「先輩」。第一章は京都の繁華街・木屋町と先斗町を飲み歩きながらどんどん北上する彼女と、せめて彼女の視界に入って認識されるべく奮闘するも健闘むなしい先輩がユーモラスに描かれます。
京都には就職前に数年住んだことがございまして、先輩を気の毒に思いつつも実在する(またはモデルとなっている)店名が出てくる彼女の足取りが懐かしくて楽しい章です。一見繋がりなくバラバラに現れて点在する登場人物たちが、最後一箇所に集約して環になるような感じも大好きです。
繁華街が舞台なだけにいろんなお酒が飲まれます。ラム、ウヰスキー、焼酎、麦酒、三鞭酒(シャンパン)、地麦酒、赤玉ポートワイン。中でも「何それ?」と目を引くのが「偽電気ブラン」。かの神谷バーの電気ブランは30度、40度のリキュールですが「偽」電気ブランとは? 黒髪の乙女さんてばお人好しで好奇心旺盛な上にめちゃめちゃ酒が強いようで、なりゆきで高利貸しの「李白さん」と偽電気ブランの飲み比べに挑みます。彼女が初めて偽電気ブランを飲む描写がそれはそれは陶然とする美しさなのですが……。あしながおじさん(仮名)が引用まかりならんと申すので、文庫初版なら63~65頁を各自ご確認ください。清酒と言い張ってなんら違和感のない表現です。
勝負というのに、彼女は飲むごとに李白さんと言葉もなく分かり合う幸せな感覚に浸ります。初対面のひとと親しく笑いながら酌み交わす酒……香り高くきれいな『純米三酒 吟』はいかがでしょう。愛らしい黒髪の乙女にもお大尽の李白翁にもぴったりだと思うのですが。

風が強く吹いている 三浦しをん 2006年新潮社刊 2009年新潮文庫刊

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1月2日と3日にテレビ・ラジオで全国中継されるスポーツと言えば? そう、『東京箱根間往復大学駅伝競走』こと箱根駅伝。往路5区間復路5区間、217.1kmを大学生10人が襷をつないで走るアレです。平均視聴率が毎年30%近くあるといいますから一度は生中継を目にされたことがある方は多いでしょうし、沿道で応援したことがある方もいらっしゃるかも。この小説の舞台は箱根駅伝、主人公たちは箱根を目指す大学生です。といっても大学は強豪校でも常連校でもなく出場ゼロ回、メンバーはギリギリの10人。その大半が陸上経験すらなく中には運動嫌いもいるのに、オンボロな以外は好条件のアパートに入居したと思ったらある日突然箱根駅伝を目指すことになっていた……。いやこれだけだと何のことだかわかりませんよね。そうなんですけど、「そんなこと現実にはありえないでしょー」と思いながらも読み進めていくと、「もしかしたら彼らなら……」といつのまにかシフトチェンジしてしまう、力強い物語です。
体育会系の割に上下関係が緩くて仲の良いこの10人、しょっちゅうアパートで集まって酒を飲んでいます。アパートというより小所帯の学生寮を思い浮かべた方がイメージは近いかも。「なぜこのメンバーなら絶対に箱根を目指せると確信を持てたのか?」と言いだしっぺでリーダー格の四年生に問うと「みんな酒に強いから」「長距離選手は内臓の代謝がいいのかいくらでも飲めるって体質のひとが多い」と答え、もっともらしい回答を期待していたメンバーに衝撃を与える場面があります。マジか。
真偽はともかく、それくらい酒が強くて好きなようす。酒好きが10人も集まれば、清酒に詳しくてお金がなくてもおいしい酒を調達してくる人間がひとりぐらいいるもの。狭いアパートの一室で同じ高みを目指す仲間と飲む「緊張をやわらげ、団結を固める」酒、かつ学生さんに高すぎず安すぎない酒……では『純米三酒 辛』のイメージで。みんなザルどころかワクだそうですから、飲み疲れしないスッキリした酒をおススメしましょう。

気のおけないひとと飲む酒、初対面のひとと打ち解ける酒、仲間と楽しく飲む酒、そして素敵な小説と一緒にしんしんと味わう酒……。飲む機会が多くなる年末年始、いろんなシーンでいろんな酒を楽しみましょう。どうぞ良いお年をお迎えください。

純米三酒

時代に合った日本酒として造られ、それぞれが個性的な三酒。華やかさ、辛口・旨口、そして温度など、お好みに合わせてお選びください。
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