酒を造るということは、日本の文化を継承するということ。 酒文化の伝道する梅乃宿のポリシーをご紹介します。
SEASON 02
酒造りの担い手たち
vol.7 梅乃宿の酒造りは、「和醸良酒」。蔵の自慢は、チームワーク。
蔵人 楠井 崇裕
梅乃宿に蔵人として入社して11年。現在は麹を担当しています。伝統的な技術を身に付けられる仕事に就きたいという思いで選んだ職場で、自分が造りに関わったお酒が世の中に出ていくことで、仕事に誇りを感じるようになってきました。昨年は若手の蔵人のみで造りに挑戦する酒『UK-01』の、リーダーも務めさせてもらいました。
酒造りには、「一麹、二もと(酒母)、三造り(もろみ)」という一節があります。これは造りの工程を表現すると同時に、酒質に及ぼす影響の大きさも表しています。自分の仕事は、まさに一麹。麹米をつくる担当で、酒造業界では麹屋(麹師・大師など)と呼びます。麹米は、温湿度が管理された麹室(こうじむろ)で造られますが、この室での作業の管理や麹の世話をするのが主な役割です。衛生面には細心の注意を払い、目指す酒質に合った最適な麹米が造れるように、常に人の動きと手入れの状況に気を配ることも大切な仕事の一つです。
梅乃宿の日本酒の魅力は、妥協しない造りにあります。造りの前に理想とする味を突き詰め、造りに入るとその味を目指して徹底的に手間と時間をかけ、納得がいく酒に仕上げます。また、造り中であっても疑問や納得がいかないことがあったときには蔵人たちみんなでとことん話し合います。すべての酒においていえることですが、特に若手の蔵人のみで(入社11年目ですがまだ若手です)造りに挑戦する『UK-01』の場合は、まず前年に仕込んだ酒の反省から取り組み、蔵が造りたい酒と若手が造りたい酒にズレが生じないよう、また、市場で求められる酒、みんなが呑みたい酒とはどんな酒かなど、話し合いを重ねます。米選びや麹選びはその後。どの酒に向き合う場合も、合理化のために設備の力を借りることはあっても、手間ひまをかけて造るという部分は惜しみません。
毎年10月になると、蔵の玄関にある祠(ほこら)で醸造祈願祭を行い、心身ともに気を引き締め、いよいよ日本酒造りが本格的にスタートします。造りの季節は、蔵人は朝早くから夜中まで造りに集中します。一刻一刻と表情を変えていく麹米や発酵の様子を見るのが面白く、辛いと感じることはありません。時には今日が何曜日か分からなくなる時もあります。
そんな造りの季節の楽しみのひとつが、蔵人みんなでの夕食会。週に数回、蔵の食堂で、蔵人みんなで同じ釜の飯を食べながら、自分たちが造った酒を呑み、蔵人の親睦を図っています。たまに会長や社長も、普段なかなか食べられないような高級食材を持って参加されたり、他の部署の人たちの飛び入り参加もあったりして会社全体での親睦も図っています。また、親睦だけでなく、他の蔵のお酒を利いたり、日本酒と食事の相性を見たりと勉強も欠かさず、いつも話題は豊富です。杜氏の昔話や貴重な失敗談(たまに愚痴も)が聞けるのもこんな時間で、笑い声が絶えません。そんな時間が楽しくて、酒の量が増え、1升瓶がごろごろ床に転がっている日もたまにありますが・・・。
梅乃宿の酒造りは、まさに「和醸良酒(わじょうりょうしゅ)」。チームワークが良く、和は良酒を醸すという言葉を地でいっていると感じます。自分もそのチームワークづくりの一端を担えるように、若い蔵人の様子に気を配り、円滑な人間関係を築くということを常に念頭において造りに携わっています。
自分は新しいこと、新しいものが大好きで、蔵の仕事においても、新しい技術はどんどん吸収していきたいと考え、常にチャレンジする気持ちを持って仕事に挑んでいます。そんな中でもプライベートの時間には、新しい飲食店の開拓や話題のお店などにも積極的に足を運んでいますが、一番の目的は、全国で造られている日本酒を少しでも多く口にし、その味を自分の舌に覚えさせること。同時に、日本酒に合う食を探究したいという想いも尽きることはありません。そんな時間の姿勢は、必ず仕事にも通じるため、知らないことを知りたいという好奇心や、何事にもチャレンジする心構えは、どんな時も大切にしています。
自分にとって、蔵人は一生の仕事。
ものづくりという、特に日本の伝統文化である日本酒造りという仕事に誇りを持ち、自分たちで新しい酒文化と云うものを築き上げるためにも、これからもここ梅乃宿で、真正面から日本酒造りにぶつかっていきます。