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新蔵物語

創業以来、開拓者精神をもって酒造りに勤しんできた梅乃宿。 清酒を巡る環境が大きく変化する中、ブランドコンセプトである 「新しい酒文化を創造する蔵」を体現すべく奮闘してきた「蔵」を巡るものがたり。

新蔵ものがたり 第18回

効率が激変、マインドまで変えた物流改革

ここまでさまざまな改革に取り組んできた梅乃宿ですが、2000年代はじめから半ばにかけての苦しい時代をリキュールへの挑戦によって乗り越えたことは、このものがたりの中盤でお話してきました。リキュールは新たな事業の柱となって経営を支え、成長する梅乃宿の原動力の1つとなったわけですが、第8話で少しふれたように、出荷量のあまりに急速な伸びが製造・出荷業務を圧迫した時期がありました。

右肩上がりの好調を受け、ゆず酒を発売した翌年の2007年(平成19年)にはリキュール用充填ラインが完成しましたが、出荷業務の改善はなかなか進みませんでした。大きな障壁となっていたのは、作業スペース確保の難しさでした。梅乃宿の蔵は趣ある住宅街の一角にあり、業容が拡大して手狭になったのを感じながらも敷地を広げることは困難でした。当然、瓶詰めを終えた大量のリキュールをストックしたり出荷作業をしたりする専用スペースなどなく、あちこちのちょっとした空きスペースをやりくりし、狭い空間で瓶を入れた大きな段ボール箱を動かしながら発注に対応していました。

「注文を受けたらすぐにお客さまの元へ」が梅乃宿のモットーです。リキュールの大ヒットで出荷量が天井知らずに増えても、「当日正午までの受注分は当日発送」を順守するため、他部署のスタッフも出荷業務の手伝いに回り、特に12月など繁忙期になると作業は毎日夜中まで続きました。それでも、日々押し寄せる大量の発注をさばき切ることはできず、やってもやっても出荷待ちの商品は減りませんでした。

連日、ぎりぎりまで集荷トラックに待ってもらいましたが、間に合わなかった荷が出荷場に積み上がっていきました。また、間違った商品を発送してしまうといったミスも起きてしまい、納品予定日がさらにずれ込むといった事態も発生しました。

「目の前の出荷を何とかこなさないと」と手一杯になっていた担当者に、売上が上昇し経営が安定していくのをうれしいと感じるゆとりはまったくなく、日々は流れていきました。

そんな苦難を脱する一歩となったのが、物流・出荷担当スタッフの発案で2010年(平成22年)にスタートした出荷業務の外部委託でした。商品をあらかじめ運送会社に渡しておき、注文が入ればそこから発送してもらう段取りです。倉庫代を払うことで、社内に大量の商品をストックするスペースを確保する必要がなくなり、出荷作業から解放されたスタッフの心には大きな余裕が生まれたのでした。

より効率的な仕組み作りで、より働きやすく

発送業務の外部委託によってストックや出荷場用のスペースをやりくりする必要が減ったとはいえ、梅乃宿の蔵や社屋は、地酒蔵として日本酒の造りに専念していた昔ながらの建物であり規模感です。周辺の建屋を事務所などとして活用していたもののどれも小規模で、手狭感や動線の悪さは大きな課題として残っていました。そこを抜本的に解決するべく、2013年(平成25年)の創業120周年記念式典で発表したのが新蔵への移転構想です。新蔵にまつわるお話は第20話でまとめてお伝えしようと思いますが、少しだけ先取りして、移転構想の副産物として完成した物流センターのお話をしておきましょう。

新蔵に適した場所を捜していた梅乃宿には、さまざまな不動産情報が届くようになっていました。その1つが元々の日本酒蔵から徒歩数分の距離の土地でした。日本酒蔵からも、2009年(平成21年)に完成した自社の冷蔵倉庫からも近い好立地だったため、オーナーから話がもちかけられるとすぐ、商品を一元管理する物流センターの建設を決定しました。

そして2014年(平成26年)、物流センターが稼働します。出荷業務の外注による負担軽減はそのままに、在庫を管理する自社スペースができたことで、運送会社に支払う倉庫代は最小限に抑えられるようになりました。

その一例が、出荷前の商品の品質管理へのこだわりです。

手貼りのラベルの位置はそろっているか、ほんのわずかでもキャップにぶつけた打痕はないかなど、2〜3人でダブルチェック、トリプルチェック。合否を厳しく判定し、担当した全員が押印したものだけを出荷可能にしています。

チェックのための詳細な基準—ラベルの高さは何センチ何ミリ、誤差何ミリまで可能といった詳細な仕様書は現場発信で作り上げられたのですが、それを可能にしたのは、物流センターが稼働したことでスタッフに生まれた時間と心の余裕だったのです。

効率化という点では、受注の仕組みにも手が入りました。以前は電話やファクスで受注していたため、小売店名の聞き間違えや、字の読み間違いもあり、確認のために電話をかけ直すことが少なくありませんでした。そこでインターネットの受注システム「酒Q」を導入。効率化が進んだことで現場に生まれた余裕は、より気持ち良く、働きやすくするための基準作り、仕組み作りに振り向けられていくことでしょう。

梅乃宿の行動指針を見ると、二番目に「みんなが仕事をしやすい環境づくりをしよう!」と書かれています。各所で進められてきた効率化を味方に、そして新しい蔵を舞台に、これからどんな仕組みが生まれ発展していくのか。吉田家の庭の梅の老木ながら、この先が楽しみで仕方ありません。

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