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新蔵物語

創業以来、開拓者精神をもって酒造りに勤しんできた梅乃宿。 清酒を巡る環境が大きく変化する中、ブランドコンセプトである 「新しい酒文化を創造する蔵」を体現すべく奮闘してきた「蔵」を巡るものがたり。

新蔵ものがたり 第19回

世代を超えてつなぐ梅乃宿の DNA

リキュールへの挑戦が軌道に乗って以降、最新設備の導入や海外進出、福利厚生や研修といった社内制度の整備など、梅乃宿はさまざまな挑戦を続け進化してきました。

商品開発の面でも、日本酒やリキュールの新ラインナップの開発はもちろん、新しい市場開拓を見据えた動きも進んでいます。その1つが、ジンです。ジンの起源となった蒸留酒の本場・オランダで、研修を経て、2020(令和2年)に蒸留酒製造の免許を取得。蒸留酒人気の高い欧米の酒文化になじむ本格ジンを皮切りに、欧米でも梅乃宿ブランドを定着させていくプロジェクトが進行しているようです。

こうして、このものがたりを語り進めば進むほど、経営や売上の好不調はあっても、梅乃宿が挑戦を止め、じっと停滞していたときは一度としてなかったということを改めて実感させられます。その中でもここ10年ほどは、進化のスピードがいっそう上がったといえるかもしれません。

 

その「変化の時代」を最前線で体感してきたのが、入社して約10年、前回お話した出荷業務の外部委託がスタートした2010年(平成22年)入社組です。2008年(平成20年)のリーマンショックの影響を受け、日本国内の好景気が一気に冷え込み就職難となった時期の入社ですが、梅乃宿は当時も経営好調を維持し、新卒採用を積極的に行っていました。

梅乃宿の暗黒時代をくぐり抜けてきた田中や福山、髙橋たち第一世代とは違い、2010年入社組はどん底だった時期の厳しさは知りません。それでも「出荷業務委託前と後とで、現場の業務量がパッと変わったのはよく覚えている」と2010年入社組一人、石塚が振り返るように、どん底の残り香ともいえる気配は感じ取ってきました。

また、新人時代から第一世代の背中を見て、時には「ボーナスが出ないときや、出ても現物(酒)支給の時があったよ」など、どん底時代の話を直接聞いて育ってきてもいます。石塚と同期で、東日本エリアの営業を担当する小山は、先輩たちの目に時として宿る「あの時代には絶対に戻りたくない」という強烈な意志の炎に、梅乃宿を支える強さを感じとっているようです。石塚も新入社員当時、先輩から「今はこのリキュールが好調だけど、来年はあかんようになってくるはず」と聞かされたことがありました。新社会人として期待をふくらませていた時期だっただけに「え、本当に?」といっときは落ち込んだものの、それは「常に新しいものに挑戦しないと。今良くてもいつまでも続くものじゃない」と次を貪欲に考える姿勢の現れだったと分かると、背筋が伸びたといいます。

先輩を見て育ってきた2010年入社組も、キャリアを重ねて今はさらに下の世代を引っぱる立場になっています。当然ながら下の世代が知っているのは、成長軌道に乗り、経営が安定して、社内制度も整った優良企業としての梅乃宿の姿です。先輩たちから「昔はこうだったよ」という話を聞く機会はあっても、そこに実感は伴わず、「昔ばなし」のような感覚とらえてしまっても仕方のないことでしょう。

「ただし」と声を上げるのが2010年入社組です。第一世代と下の世代をつなぐ世代として、先人たちが梅乃宿をここまで成長させたチャレンジ精神、お客さまとの縁、品質へのこだわり、芯の強さといった「梅乃宿らしさ」は薄れさせることなくつないでいかなくてはいけない、と考えているようです。2010年入社組にこうした強い自負が芽生えていることは頼もしい限りです。

そして、活躍の舞台は新蔵へ

10年ひと昔と言いますが、確かに時代は変化しています。2010年入社組が「梅乃宿の強さの源」と称した第一世代の頃は、社員もさほど多くなく、よく言えば少数精鋭部隊。営業回りのための資料は自分たちで作成するのが当たり前というように、必要だと感じたものは自分で何とかするほかありませんでした。

そこから年月を経て、多様性の尊重、女性活躍、働き方改革といった通念が広がり、日本全体の働く環境がより良い方へと変化していることは、吉田家の庭先に棲む梅の木の私の耳にも届いてきます。また、昭和から平成、令和と時代が移る中で、日本の若い世代の考え方や価値観、仕事への取り組み方にも変化が見て取れると耳にします。「何としても気合でやり抜く」というのが昭和世代だとしたら、率先して先頭に立つというよりは、デジタルなどを駆使して高い能力で業務を遂行することを得意とするのが現在の若い世代の傾向なのかもしれません。

「よくいえば自発的ともいえるけど、自分たちの世代は必死だったからがむしゃらにやってきたというのもある。それぞれの時代、一長一短はある」。若手世代と自分たちとの置かれた環境の違いを、梅乃宿の第一世代は冷静に見つめ、まだ業界に染まっていない若い世代の目を通した業界の見え方、アンテナ感度に対し、大いに期待を寄せているようです。

土台となる強さを備えた世代と、それを受け継ぎつないでいこうとする思いを強めている世代、時代を敏感にキャッチして先入観なくアイデアに落とし込む若い世代・・・。多くの人財が集った梅乃宿の中で、これからどんな化学反応が起きていくのでしょうか。

その舞台となるのが、新蔵です。ただし、この新蔵オープンに向けての道のりも、これまで同様に平坦ではありませんでした。

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