酒を造るということは、日本の文化を継承するということ。 酒文化の伝道する梅乃宿のポリシーをご紹介します。
SEASON 04
梅乃宿ストーリー
第7回 【若き清酒の作り手たち】蔵人全員で新しい清酒造りに挑む
蔵人として清酒造りのさまざまな工程で腕を磨き、清酒造りの現場を取りまとめてきたのが日本酒製造課 課長の上田さんです。社員による清酒造りをスタートさせるにあたり醸造責任者を任された今も、現場で過ごす時間を大切に、全員のレベルアップに心を砕いています。
日本酒製造課 課長 醸造責任者:上田 和彦
———日本酒との出会いを教えてください。
梅乃宿には最初、アルバイトで入りました。その頃は、特に日本酒に興味を持っていたわけではなかったんです。
それでも、蔵の仕事をしていくうちに、米へのこだわりや、同じ米を原料にしながら違う味のお酒がなぜできるのか、といった清酒造りの面白さが分かってきたんです。杜氏(とうじ)や蔵人の皆さんの人柄も魅力でしたね。
清酒造りのことを全く知らなかったので、逆にすべてが新鮮で興味深く、「酒造りを仕事にしてみないか」と当時の社長(現会長)から声をかけられたときは、二つ返事で引き受けていました。
入社して蔵のさまざまな仕事を経験し、8年目くらいに頭(かしら)になりました。頭はいわば蔵人のとりまとめ役です。ともに現場に入りながら、1人ひとりの仕事のはかどり具合や健康状態などを気にかけ、食事時にはプライベートな話をきっかけに考えを聞いたりしていました。杜氏(とうじ)から「君を頭にしてよかった」と言われた時はうれしかったですね。
———杜氏(とうじ)による清酒造りから社員による清酒造りに変わって、大変だったことは?
蔵人の役目は、杜氏(とうじ)が決めた方針をきちんと実行していくことでしたが、社員による清酒造りに変わると、「酒質や味をどうするか」といった部分からすべて自分たちで決める必要があります。そういう経験はしてこなかったので大丈夫かなという思いはありました。その一方で、挑戦を楽しむ気持ちもわきました。
部長の桝永と開発担当の播野、現場担当の僕の協力体制で清酒造りをしていくということで、気にかけたのが意見のすり合わせです。3人がバラバラなことを言っては現場が困ってしまいますからね。とはいえ、3人の意見・思いは常にほぼ同じでしたし、合わない部分があっても、話し合って最適な意見をまとめることができる関係性を築けています。不安がなかったわけではありませんが、予想以上にスムーズにいっているというのが実感です。
———蔵人たちにはどんな変化が起きていますか?
なぜ今この作業をするのか、何をしなければいけないか、蔵人の1人ひとりが理解しながらやっているのを感じます。1人ひとりが清酒造りを「自分ごと」として考える傾向が強くなっていて、疑問を感じたら改善を提案したり、アイデアを出してくれたりしていて頼もしいです。
———近年は、清酒造りの常識を変えるような、新しい取り組みをする蔵が増えていますね。
確かに、お酒の味に対するお客さまの好みも、清酒造りの手法も大きく変化しています。若い世代の蔵元や杜氏(とうじ)も増えていますし、昔ながらの清酒造りとは違うやり方を打ち出している蔵も少なくなく、話を聞くと刺激を受けます。
例えば、蒸米から麹を作る作業。かつて麹は素手で触るのが通例でしたが、衛生面を考え手袋をする蔵が増えています。このように「当たり前だったこと」が変わってきている時代ですから、常識にとらわれないこと、そして、新しい取り組みを耳にしたら試してみて、いいなと思えば、梅乃宿に合うかをみんなで相談し、取り入れていくことが大事だと考えています。
そのためにも、さまざまな考え方・やり方にふれることが勉強になるので、醸造協会主催のセミナーに出たり、セミナー先で知り合った蔵に見学や研修をお願いしたりして、私自身も蔵人も、知見を広めることに力を入れています。
———若い世代や海外のお客さまなど、日本酒への注目が高まってきています。
「日本酒といえば熱燗」という時代とは、求められる味の好みは変わってきていますし、海外のお客さまとなれば、気候も、合わせる料理も、日本とは違います。
こうした変化に対応するため、昔ながらのお酒を醸す一方で、季節限定商品などは極力、今のトレンドを踏まえて作っていこうと挑戦しています。
ただし酒造りは、前年の出来を見て翌年どうするかを考える、時間と手間のかかる仕事です。しかも今は、社員による清酒造りに変えて、まさに挑戦の真っ只中。新しい味を醸すといっても、やみくもにやるのでは何をどう変えていいか分かりません。
そこで、まずは酒造りの教科書に沿ったような王道の造り方をベースに、勉強して培った考えで変化を加え、その経験やデータを蓄積して力をつけています。この経験値が蔵と蔵人に積み重なることで、思い通りの味を醸せるようになっていくと思っています。
———挑戦の先に、どんな夢を描いていますか。
清酒造りのやり方を変えてまだ2年。今は、次の酒質や味をどうするかを決め、実践し、経験を積むことに力を注いでいますが、いずれは蔵人全員が杜氏(とうじ)レベル、つまり清酒造りのすべてを把握し、さまざまな対応ができるようになりたいです。そのとき、梅乃宿はすごい蔵になると思うんです。
現状でも既に「いろいろ新しい挑戦をしている蔵」として評価され、他の蔵から蔵見学にいらっしゃることも増えています。清酒だけでなくリキュールも手掛ける蔵であるため、いい意味で日本酒に凝り固まり過ぎず、柔軟で新鮮な発想ができているのかもしれません。新しい酒文化を創造する蔵として、この持ち味を大切に成長していきたいです。