酒を造るということは、日本の文化を継承するということ。 酒文化の伝道する梅乃宿のポリシーをご紹介します。
SEASON 04
梅乃宿ストーリー
第8回 【若き清酒の作り手たち】お酒と職場がより良くなるよう後方支援
杜氏(とうじ)制度を廃止、2017年から社員による清酒造りをスタートさせた梅乃宿で、データ収集と解析を通して酒造りを支援しているのが企画開発部 課長の播野さんです。データを重視しつつも、データに頼りすぎないバランスの良いスタンスを心掛け、蔵人たちを支えています。
企画開発部 課長:播野 真平
———農学部で食品栄養学を学び、日本酒造りがやりたかったそうですね。
お米自体はうま味や甘みはありますが、ものすごく味のある食べ物ではないですよね。それがお酒になると香りや甘さが出てくる。お酒を飲むようになってそれに気づき、「日本酒ってすごいな、造ってみたい」と純粋に思いました。
そこで「酒造りをしたいのですが、人の募集をしていませんか」といくつか蔵に自ら押しかけ売り込んで、梅乃宿への入社が決まりました。
———酒造りのデータの収集・解析とは、どんな内容なのでしょうか?
酒造りは、精米などの原料処理や、麹(こうじ)、酒母、もろみ、上槽といった多くの工程を経て行われます。蔵人が手間暇かけて工程の1つ1つをしっかり行うという基本姿勢は、杜氏(とうじ)による酒造りも社員による酒造りも変わりません。一方、かつては杜氏(とうじ)が酒造りの状況の全てを把握し、蔵人はその指示で作業を進めていましたが、現在は蔵人同士が情報を共有し、判断し、仕事を進めていく必要があります。
そこで、必要な情報を収集し、分かりやすく数値を提示することで酒造りを後方支援する、というのが僕の役割です。実際に蔵人から要望を聞き取り、麹(こうじ)、酒母、もろみなどそれぞれの工程ごとに、前工程の経過と今の状況、さらに今後の想定を1シートで把握できるようにデータをまとめ、日々使ってもらいながらよりよいツールになるように改善を重ねているところです。80回を越える改訂をしたものもあるんですよ。
———どんな点に難しさ、やりがいを感じますか?
データ上はいい数値を示しているのに想像していた味にならなかったり、経験上これだけの時間が経過すればこうなっているはずだと思っても、そうはならなかったりすることはよくあります。ですから、データを重視しつつもデータ至上主義にならないように、バランスを心掛けています。
酒造りには本当に多くの工程があり、さまざまな要素が絡み合います。そのため「これをこうしたからこうなった」と、原因を1つの作業に絞り込むことが非常に困難で、カンや経験に頼ることが多かったわけです。今は、その非常に複雑な工程をデータ化できるように、どんな要素があるか1つ1つ分解している真っ最中で、やりがいと楽しさを感じています。
酒造りのことが少し分かってきたと思っても、またその先に分からないことが出てくる。酒造りは奥深くて、本当に興味が尽きません。
———各工程で状況把握に使っているツールに対する、現場の反応は?
以前も、日々の作業内容を記す日報的なものはありましたが、工程ごとに別々にまとめられていました。そのため、「前工程でこうした結果、現在はこうなっている」「こうした酒質を目指しているから、今これをやる」など、全体像を把握する情報としては不向きでした。
酒造りの工程はぶつ切りではなく、酒母→もろみのようにつながって進んでいきます。そこで、前後の工程のことも把握・類推できるようなツール作りを心掛けました。何かあれば、「こういうデータがほしい」「こうした内容を書き込みたい」といったツールに対する要望やアイデアを蔵人から積極的にもらって います。
和醸良酒(わじょうりょうしゅ)—和は良酒を醸す、良酒は和を醸すという言葉がありますが、酒造りの後方支援部隊として、職場のより良いコミュニケーション(=和)にも貢献できたらうれしいですね。
———取り組んでいる新しい体制での酒造り、ご自身の手応えは?
入社した当初に酒造りを経験はしましたが、その後、リキュールの担当になり、本格的に清酒の造りに取り組んだのは今回の体制変更後のことです。
そのため、当初は酒造りの流れを追うのが精いっぱいでしたが、少しずつ実体験が伴ってきたことで感触をつかみ、「入口に立てたな」という感じです。
もちろん、リキュールを担当していた時期も、日本醸造協会の講習やセミナーを受講し、他の蔵の取り組みや研究者の発表などにふれる機会は多くありました。精米にこだわる蔵、酒母の作り方にこだわる蔵、遠心分離を使うなど上槽にこだわる蔵など、近年は技術と機械の革新を積極的に取り入れて挑戦している蔵が増えています。
まだ商品化はされていませんが、僕自身も酒造りの教科書とは違う手法で仕込んだり、オリジナル酵母を模索したり、新しい酒造りに挑戦させてもらっていて、そうしたデータも蓄積していくことで、より役立つ情報を提供できるようになっていくと考えています。
———今後、挑戦したいことを聞かせてください。
当社のリキュールのゆず酒の場合、1つの産地の果実だけを使うよりも、いろいろな産地のゆずをブレンドした方が味に深みが出るし、年度によって出来不出来があっても安定した味を提供できる。これはリキュールの経験があるからこそ実感できたことです。
こうした経験を持つ清酒一辺倒ではない自分が関わることで、従来の「当たり前」にこだわらない、ひと味違う発想を発信していけたらうれしいですね。